光がみえ出会ったその人とは特別なご縁を感じ仲良くなりました。
親切な人でした。私の為に、よく尽くしてくれましたが緊張する人でした。運命の人とは、こんなにも緊張するものかと感じつつも、どうすることもできません。時にゴリラに見える私は、戸惑いました。そして何か嫌な感じがありながらも、北上川で見た光を大切にしようとしました。ある朝、ふと思い出した香りが懐かしく、その香りを辿っていった時、突然思い出した男の子がいました。やっぱりゴリラでした。中学の頃、隣の席に座っていた男の子は、私に親切でした。野球部のキャプテンをしていて、男らしくわんぱく坊主の様な子でした。とってもさわやかな朝の香りが
しました。けれど何故か私は、その香りから心臓が悪いことを感じていたのです。珍しく気が合う男の子でした。けれど風貌はゴリラでした。高校に入り、皆で憧れごっこをした体育の先生も同じ香りがしました。
ゴリラの香りとは何なのでしょうか。
私はわかったのです。
春の日、どうしても清水寺の春の香りにふれたくて、急いで新幹線に飛び乗りました。何故こんなにも行きたいのかと問うても答えはありません。夕暮れ時、やっと辿り着きました。清水寺を歩いていると、縁結びの神と書かれていた赤い文字が胸に入ってきました。縁結びという文字が私には生命とりと感じ、こわいと感じたのです。縁が結ばれたら自分は失くなってしまう不安と恐怖が走りました。心の中で、「どうか縁を結ばないで下さい」と祈りつつ坂道を歩いていました。縁を結ぶ神がいるならこわいものだと感じました。すっかり日が暮れ、お土産屋さんも店じまいをはじめていました。夜の灯りがほんのり灯り、春の夕暮れに吹く風にのって思い出した香りは、中学の時の修学旅行の時でした。この清水寺で、その男の子は、私にお土産をくれたのです。縁結びの香りがしました。やさしく、親切な子でしたがゴリラだったのです。私は春の夜風にのり、遠い遠い昔の光景をみました。
大陸を流れる大河の畔で、死ぬほど辛かったあの時のことが映画のように映し出されたのです。美しい姫は、何人もの男の人に囲まれ、恥ずかしめを受けていました。私の内にいる姫の魂は、かすれる声で語りはじめたのです。国は滅びました。人々は混乱し、泣き崩れていました。敵も味方も見分けることもできず、大きな騒ぎが起こっていました。私は、たくさんの人に襲われ犯され、生きていく気力を失いました。国が滅び、秩序が失われる時、こんなにも人間は、野蛮になり、残虐なことが出来るものなのかと、人間とは何かが全くわからなくなりました。人間だったら到底出来ない行為を、人間の姿をした野蛮な化物は、平気で行うのです。愛する人を瞼に浮かべ、助けを求めた時、私の行く道は決まりました。人間とは思えぬ化物に恥ずかしめを受けたこの身を愛する人に見せてはならないと、川に身を投げたのです。国が滅ぶということは、人間を化物にします。いいえもしかしたら、化物が人間の姿を装い、人間を滅ぼす為に、国を滅ぼしたのかも知れません。姫の涙が大河となり、大河は悲しみの光に満ちていたのです。姫を襲い、犯した男の人達は、ゴリラの様にみえました。私は、姫の悲しみを身の内で感じ、泣きじゃくりました。泣くだけ泣くと、恐ろしい事実がみえてきました。ゴリラのように見える男の人に姫は犯され、川に身を投じました。私の内にいる姫が、ゴリラの様な男の人と縁があったのです。悲しい縁です。死に至る縁が結ばれた時、私も死ぬより道がなくなるのです。姫が辿った道を、私も辿る宿命だったのです。緊張するのは、こわいからです。心臓がドキドキするのもこわいからです。恋のときめきではなく、好きだから緊張している訳ではなかったのです。運命の人とは、この様なしくみになっているとは全く知りませんでした。姫と同じ運命を辿る様に運命の人と出会ったのでした。身が震える程恐いことです。涙で瞳がうるみ、夜の灯りが涙で濡れ歩いた京の坂道。春の夜風。私はこれから何を感じ、何を考え生きていくのでしょう。
ふと見上げた夜空。ここには、果てしなく広がる世界はなく、人間の縁でつくられた囲いが苦しく、夜空の向こうに広がる世界はありませんでした。北上川で見た光は何なのでしょうか。それは私の未来が開かれる光。死にゆく縁が解かれ、未来に生きていける縁がはじまる出会いの光。