KEIKO KOMA

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更新日 2010-01-09 | 作成日 2008-03-30


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春の野山に美しいピンク色の光が陽炎の様にゆらゆらとゆれています。
 
   若草色の山々に美しいピンクの光がゆれる光景が目の前に広がります。どこまでも果てしなく続く大陸のゆったりとした大地の音が聞こえます。美しい姫は、この世で最も愛している若草色の君を待っています。
その姿は可憐であり美しく、限りなく悲しいのです。愛する人を待つ姿がこんなにも悲しく胸を痛めていくことに私の胸は張裂けそうです。
まるでこの世の見おさめをしているように姫は、若草色に染まる生命の息吹きあふれる山々を見つめているのです。姫の意志は、天に真直ぐ伸びていました。強い女(ひと)です。美しく強い女(ひと)です。足元に咲く野の花は、黄色、紫色、赤、ピンク、白と色とりどりに美しく咲いています。この花々は、冬を耐え、新しく訪れる春がきたら又、咲くのでしょう。自然の季節はめぐり、新しい春は訪れても、ここに立つ姫の姿を見ることはないのでしょう。そんな悲しみが漂っていました。
   風はまもなくあらわれる若草色の君の香りを運んでいます。姫の心は高鳴ります。姫は目を閉じ風が運んでくれた若草色の香りに包まれ、心深く心澄まし、天へ通ずる道を探しています。この悲しみを知っているのは、若草色の君と天。天と通じ、天に抱かれ、若草色の君を待つのです。
目を開けると、悲しい瞳が心に飛び込み、姫の瞳は涙でうるみ、若草色の君は、陽炎のようにゆらいでみえます。その瞳の悲しみの輝きは 声に出して語らずとも、全てを語っています。声に出して語る事は、むごいことです。姫は美しい手を差しのべました。手のぬくもりは、天と共にあり、永遠への道を示してくれました。どれだけ泣いたことでしょう。泣いて泣いて一人歩く大地。身を裂かれる悲しみ、痛みに目が醒めた時、私の瞳は涙にぬれていました。私は、この光景をよく知っています。姫が立つ大地は、日本ではありません。私がいつも恋い焦がれ、心に抱く懐かしい故郷の大地です。私には見えます。姫と若草色の君は大河により大地が隔てられる様に、大きな時のうねりにより、今生では2度と会う事の出来ない運命により分けられたことを。いつの日か必ず会えると望み天と共に生きた姫は、その生を終える時に何を感じ、何を見ていたのでしょう。私は、わかりたいと感じ、心の奥深くを辿るように心を澄ましていきます。まるで姫の魂が私の心の内に生きているようなのです。
 京都、嵐山の渡月橋に立ちて、散りゆく桜を眺めながら、古への誘いに吸い込まれていきました。瞳を閉じると涙にぬれた姫の瞳の輝きに胸が張裂けそうになります。瞳を開くと風に舞う桜の花びらが悲しく、涙がこみ上げてきます。古の時より桜の花を眺め、美しさに魅せられ、散りゆく花びらに人生の哀しみを見たのでしょうか。水の香りは、長い年月いつの時も、再び会えることを心に生き、生を終えた人の魂にふれ、涙がにじむ私の心をそっと包んでくれます。女の人は悲しいと、川の流れはうたっているように聞こえます。けれど愛に包まれる時、悲しみをうたう声は、愛する人のもとに届くのでしょうか。大地も川も悲しみの音が聞こえます。私の心は、両手を広げ太陽を仰ぐ様に開いて、光をあびて生きていきたいと、古人の声を聞きながらも明日を抱いていくのです。

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